』と叫ぶ。『蛇喰ふと聞けば恐し雉子の聲』の句さへ思ひ出されて、いとあさまし。
 奧州濱街道に出でて、金町に至り、電車待つ間に、葛西靈松と稱する老松を看る。田舍に置くは惜しきもの也。相對して厭くことを知らざるが、思ひの外早くも電車來りければ、心は後に殘りつゝも、之に乘りて歸路に就く。
 小利根川一に江戸川と稱す。櫻なほ若し。譬ふれば、十五六の少女にや。この日、市川橋より上を見物したるが、下には櫻樹長く相連なれり。上下數里、直ちに小利根川に接し、白帆殊に趣を添ふ。平田の眺めもよし。空澄まば、富士、箱根、秩父、日光、筑波も見ゆべし。國府臺の鬱蒼たるあり。帝釋天の壯麗なるあり。酒樓には、川魚料理を以て有名なる川甚もあり。舟にて花を眺むるの便もあり。今の處、吉野、小金井、荒川が櫻の名所の三絶と云はるゝが、ゆく/\は小利根川、必ず之に加はるべし。[#地から1字上げ](大正五年)



底本:「桂月全集 第二卷 紀行一」興文社内桂月全集刊行會
   1922(大正11)年7月9日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:H.YAM

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