ンと結んだ、一人の異様な角力《すもう》取りが、我れと己れの舌を噛《か》み切って、仰向きざまにぶっ倒れていたのでございます。
「手遅れでしたよ」
 お医者様はそういいながら、無造作《むぞうさ》な手つきで死人の体をまさぐっていられましたが、やがてふと、卒塔婆の前のもう既に燃えつきようとする線香の束の横から、白い手紙のようなものを取りあげると、そいつをひろげて、黙って警部さんのほうへ差し出されました。むろんその手紙は、私もあとから見せていただきましたが……なんでも、余り達筆ではございませんでしたが、それでも一生懸命な筆跡で……

御|贔屓《ひいき》の奥様。
いきさつは御実家の旦那様からお伺いいたしました。私めのためにとんでもない濡《ぬ》れ衣《ぎぬ》をお着になったお恨みは、必ずお晴らし申します。特別御贔屓にして頂きました私めの、これがせめてもの御恩返しでございます。

 ――大体、そんなことがその手紙には書いてあったのでございます。
 ――いや全く、相手がお角力取りと知ってからは、大きな下駄の跡を、庭下駄だなんて騒いでいた連中がおかしいみたいで……それに、これはあとから奥様の御実家の旦那様から
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