とかいうものを、焼きつけられたんでございます。
 ――ところが、それから間もなく、奥様のお墓の近くまでやって参りました私は、不意にギョッとなって立ち止まったのでございます。――見れば、まだ石塔の立っていないために、心持ち窪んで見える奥様のお墓のところから、夜目にもホノボノと、青白い線香の煙が立っているではありませんか。
「ああ、確かあの、煙の立っているところでございます」
 もう私は、案内役ができなくなりましたので、そう言ってふるえる手で向こうを指差しながら、皆様に先に立っていただきました。するとお医者様が真っ先になって、ドシドシお墓のところまでお行きになりましたが、立ち止まって覗《のぞ》き込むようにしながら、
「こんなことだろうと思った」
 そういって、私達へ早く来い――と顎をしゃくってお見せになりました。続いてかけつけた私達は、ひとめお墓の前を覗き込むと、その場の異様な有様に打たれて、思わず呆然《ぼうぜん》と立ち竦んだのでございます。
 ――黒々と湿った土の上に、斜めに突きさされた真新しい奥様の卒塔婆《そとば》の前には、この寒空に派手な浴衣地の寝衣を着て、長い髪の毛を頭の上でチョコ
前へ 次へ
全23ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング