がこの頃になって、どうしたことか急に悪いことになり、とうとう奥様は御離縁という、まことに不味《まず》いお話になってしまったんでございます。
――いや全く、なんだって今更《いまさら》御離縁なぞというとんでもないお話になったのか、私共にはトンと知る由もございませんが、御実家のお父様も、二、三度おいでになって、いろいろとお話をなさったようでございましたが、なにぶん頑《かたく》なな旦那様のことでお話はできず、親元へお引き取りということになったんでございます。
――いや、どうも、これがそもそも悪いことの始まりでした。奥様は大変お嘆きになって、お眼を真っ赤に泣きはらしながら、お父様と御一緒にお帰りになるし、旦那様は、なにか大変不機嫌で、ろくに口をお利きにならないという始末。私共もずいぶん気を揉《も》んだんですが、何を申してもこちらはただの傭人《やといにん》、それに、第一なんのための御離縁か、肝心要のところがトンとわかっていないのですから、お話にもなりません。なんでも、女中の澄《すみ》さんのいうところでは、なにか奥様に不行跡があっての御離縁ではあるまいかなぞと申しますが、しかし私は、初めっから、
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