奥様がそんな方でないことは、チャーンと存じ上げておりました。成程《なるほど》奥様は御器量よしで、さすが下町育ちだけあって万事に日本趣味で、髪なぞもしょっちゅう日本髪でお過しになりましたが、それがまたなんともいえない粋な中に気品があって、失礼ながら校長様の奥様としても、申し分ないほどお美しい方でしたし、それに第一また、お子様もないことですので、お一人で気軽に外出なさることもよくございましたけれども、一旦お天道様が沈んでからというものは、一人でお出掛けになったことなど、決してございませんでした……いや全く、私もこの歳になるまでには、ずいぶんいろいろな女も見て参りましたが、奥様のように、大事なところをキチンと弁《わきま》えていられる方は、そうザラにはござんせんですよ……
 ――いやどうも、とんだ横道にそれてしまいましたが、さて、それから大変なことが、続いて持ち上がったのでございます。……あれは、御離縁になってから確か四日目のことでございましたが、まだお荷物も片付いていないというのに、御離縁を苦になさった奥様は、とうとう御実家で、毒を呑《の》んでお亡くなりになったんでございます。どうも、なんと
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