……なんでもないよ。……それから、この死人の傷にしたって、何か重味のある兇器で使いようによっては充分こうなる。……それからまた、内側の減った下駄にしても、なにも内股に歩くのは、こちらの奥さん一人きりというわけでもないだろう……わかったね。じゃァひとつ、これから、その亡くなった奥さんの、人形町の実家というのへ案内してくれ。そこにいる女を、片ッ端から叩きあげるんだ」
 警官は、そういって、ガッチリした体をゆすりあげたものでございます。ところが、この時、いままで旦那様の御遺骸を調べられていた、わりに若い、お医者様らしいお方がやって来られまして、不意に、
「警部さん、あなたは、なにか勘違いをしてられますよ」
 とテキパキした調子で、始められたんでございます。
「たとえば、あなたの鉄棒を曲げるお説ですね。聞いてみれば、成程ごもっともです。その手でやれば、二本の鉄棒は、人間の力で充分曲がりましょう。しかし、いまあの窓で曲げられているのは、三本ですよ。三本曲げるにはどうするんです。え? いまのあなたのお説では、二本しか同時に曲げることはできないのですから、二本とか四本とか六本とか、つまり偶数なら曲げ
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