られるが、一本とか三本とか五本とか、奇数ではどうしても一本きり余りができて、手拭の輪をかけることもできないではありませんか。……だからあれはそんな泥棒じみたからくりで抜いたんではありませんよ。本当に魔物のような力でやったんです。
 ……それから、例の下駄の件ですがね、あなたは、あの下駄を履いた内股歩きの女が、人形町あたりにいるようなお見込みですが、しかし、こういうことを一応考えてください。つまり、下駄の裏の鼻緒の結び跡が残るほど内側が減るには、一度や二度履いただけではなく、いつも履いていなくちゃアならぬわけでしょう。そうすると、鏡台に向かって、乱れた髪をときつけて帰って行くような、たしなみを知っている普通の女がいつでも庭下駄なんぞを履いて、しかも人形町あたりでゾロゾロしているというのはちょっとおかしかないですか……」
 そう言ってお医者さんは、急に部星の隅へ行かれて、畳の上から例の忌《い》まわしい線香の束を拾いあげると、今度はそいつを持ってツカツカと私の前へやって来られていきなり、
「あなたは谷中の墓地にある、亡くなられた奥さんのお墓の位置を知っていますか?」
 と訊《き》かれたんでご
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