、今日いまここに到るまでの気味の悪い数々の出来事を、逐一《ちくいち》申し上げたのでございます。
 ――すると、それまで私の話を黙って聞いていた、金筋入りの肩章をつけた警官は、かたわらの同僚のほうへ向き直りながら、
「どうもこのお爺さんは、亡くなられた奥さんが、幽霊になって出て来られた、と思ってるらしいんだね」
 そういってニタリと笑いながら、再び私のほうへ向き直っていわれるのです。
「成程《なるほど》、お爺《じい》さん。これだけむごたらしい殺し場は、生きている人間の業《わざ》とは、ちょっと思われないかも知れないね。しかし、これも考えようによっては、ただの女一人にだってできる仕事なんだよ。たとえばね。あの窓の鉄棒を抜きとるにしたって、なにもそんなお化《ば》けじみた力がなくたって、よくある手だが、まず二本の鉄棒に手拭《てぬぐい》かなんかを、輪のように廻してしっかり縛るんだ。そしてこの手拭の輪の中になにか木片でも挿《さ》し込んで、ギリギリ廻しながら手拭の輪を締めあげるんだ。すると二本の鉄棒は、すぐに曲がって窓枠の※[#「※」は「木+内」、第3水準1−85−54、362−3]から外れてしまう。
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