さアそれからというものは、いったい私は何をどうしたのか、いまから考えても、サッパリその時の自分のとった処置が、思い出せないのでございますが……なんでも私の気持が少しずつ落ち着いて参りました頃には、もう大勢の警官達が駆けつけて、調査がどしどし進められ、世にも奇怪な事実が、みつけられていたので[#「いたので」は底本では「いたの」と誤植]ございます。
――なんでも、警察の方のお調べによると、旦那様のところへやって来た恐ろしいものは、明らかに、一人で、庭下駄を履《は》いて来たというのでございます。それは表門の近くの生垣を通り越して、玄関、勝手口を廻って庭に面した書斎の窓に到るまでの所々の湿った地面の上に、同じ一つの庭下駄の跡が残っていたからで、しかもその庭下駄の跡は歯と歯の間に鼻緒の結びの跡がいずれも内側に残っていて、ひどく内側の擦《す》り減った下駄であることが直ぐにわかったというのでございます。
私は、警察同士で語り合っているこの説明を聞いた時には思わずギクンとなりました。それは――前にも申し上げましたように、お亡くなりになりました奥様は、日本趣味で、髪もしょっちゅう日本髪に結《ゆ》って
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