でございます。――どこへお出掛けになったのか、旦那様のお姿が見えません。いやそれどころか、お庭に面した窓のガラス扉が一方へ押し開けられて、その外側の窓枠にはめてあるはずの頑丈な鉄棒が、見ればなんと数本抜きとられて外の闇がそこだけ派手な縞《しま》となって嘘《うそ》のように浮き上がっているではございませんか。私は思わずドキンとなってその方へ進みかけたのでございますが、進みかけて、ふとかたわらの開放された襖《ふすま》越しに、畳敷《たたみじ》きのお居間の中へ目をやった私は、今度はへなへなとそのままその場へ崩れるように屈《かが》んでしまいました。お居間の床柱の前に仰向《あおむ》きに倒れたままこと切れていられる旦那様をみつけたからでございます。――お姿はふためと見られないむごたらしさで、両のお眼を、なにかまるで、ひどく凄いものでもご覧になったらしくカッとお開きになったまま、お眼玉が半分ほども飛び出して、お顔の色が土色に変わっているではございませんか。見渡せば、お部屋の中は大変な有様で、旦那様もかなり抵抗なさったと見え、枕や座布団や火箸なぞがところかまわず投げ出されているのでございます。……
――
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