続ける吊ランプの向うで、壁にぴったり寄添いながら、眼を瞋《いか》らし、歯を喰いしばって、右手に大きな手銛を持ってハッシとばかりこちらへ狙いをつけたその船長《マスター》を見た時に、丸辰がウワアアと異様な声で東屋氏にだきついた。銛が飛んで、頭をかすめて、後ろの壁にブルンと突刺さった。が、署長の手にピストルが光って、直ぐに手錠のはまる音が聞えると、丸辰が顫え声を上げた。
「そ、その男は、死んだ筈の、北海丸の船長《マスター》です!」とゴクリと唾を呑み込んで、肩で息をしながら、「そ、それだけじゃアない……いやどうも、さっきから変だと思ったが、あの運転手も、それから、甲板《そと》で捕まった水夫達も、ああ、あれは皆んな、死んだ筈の北海丸の乗組員です!」
「な、なんだって?」あとから飛び込んで来ていた隼丸の船長が、蒼くなって叫んだ。「飛んでもないこった。じゃア、いったい、それが本当だとすると、釧路丸の船員達は、どうなったんだ?」
するとこの時、いままで黙っていた東屋氏が、振返って抜打ちに云った。
「釧路丸は、日本海におりますよ」
「え※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」
船長がタジタジとなった。
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