動かぬ鯨群
大阪圭吉
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)行衛《ゆくえ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)捕鯨船|北海丸《ほくかいまる》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
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一
「どかんと一発撃てば、それでもう、三十円丸儲けさ」
いつでも酔って来るとその女は、そう云ってマドロス達を相手に、死んだ夫の話をはじめる。捕鯨船|北海丸《ほくかいまる》の砲手で、小森安吉《こもりやすきち》と云うのが、その夫の名前だった。成る程女の云うように、生きている頃は、一発|銛《もり》を撃ち込む度に、余分な賞与にありついていた。が、一年程前に時化《しけ》に会って、北海丸の沈没と共に行衛《ゆくえ》が知れなくなると、女は、僅かばかりの残された金を、直ぐに使い果して、港の酒場で働くようになっていた。砲手は、捕鯨船では高級な船員だった。だから雑夫達と違って、ささやかながらも一家を支えて行くことが出来た
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