の陣立てを見て、ひどくうろたえはじめた。が、直ぐに警官達に依って包まれてしまった。
 東屋氏は、署長、丸辰を従えて、船橋《ブリッジ》へ馳け登って行った。そこには運転手らしい男が、逃げまどっていたが、東屋氏が、
「船長《マスター》を出せ!」
 と叫ぶと、
「知らん!」
 と首を振って、そのまま甲板《デッキ》へ飛び降りた。が、そこで直ぐに警官達と格闘が始った。その様を見ながら、どうしたことかひどくボケンとしてしまった丸辰を、東屋氏はグイグイ引張りながら、船長の捜査を始めだした。
 船長室にも無電室にもみつからないと、東屋氏は、船橋《ブリッジ》を降りて後甲板の士官室へ飛込んだ。が、いない。直ぐ上の、食堂にも、人影はない。――もうこの上は、船首《おもて》の船員室だけだ。
 東屋氏は、丸辰と署長を連れて、前甲板のタラップを下り、薄暗い船員室の扉《ドア》の前に立った。耳を澄ますと、果して人の息使いが聞える。東屋氏は、すかさず扉《ドア》をサッと開けた。――ガチャンと音がして、室《へや》の中の男が、ランプにぶつかって大きな影をゆららかしながら、向うへ飛び退《の》いて行った。けれども次の瞬間、激しく揺れ
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