》を外した。その船は、釧路丸ではなかったのだ。
「どうも、仕方がないですな。しかし、違犯行為はありませんか?」
「まア見てやって下さい。間違いないようですよ」
やがて捕鯨船は、両の舷側に大きな獲物を浮袋のようにいくつも縛りつけて、悠々と引きあげて行った。
鯨群は、再び浮き上って進みはじめた。隼丸は、もう一度根気のよい尾行を続ける。
それから、しかし、一時間しても、第二の捕鯨船は現れない。東屋氏の眉宇《びう》に、ふと不安の影が掠めた。――もしも、このままで釧路丸が来なかったとしたら、夜が来る。夜が来れば、大事な目標の鯨群は、いやでも見失わねばならない。東屋氏はジリジリしはじめた。
ところが、それから三十分もすると、その不安は、見事に拭われた。左舷の斜め前方に、とうとう岩倉会社特有の、灰色の捕鯨船が現れたのだ。うっかりしていて、最初船長がそれを発見《みつ》けた時には、もうその船は鯱《しゃち》のような素早さで、鯨群に肉迫していた。
隼丸は、あわてて速度を落す。幸い向うは、獲物に気をとられて、こちらに気づかないらしい。益々近づくその船を見れば、黒い煙突には○のマークが躍り、船側《サイ
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