「45」は縦中横]ノ附近ヲ、北北東ニ向ウ大鯨群アリ――それほどの大鯨群でもないんだが」と東屋氏は笑いながら、「そうそう、序《ついで》に発信者を――貨物船えとろふ丸――とでもしといて下さい」
「えとろふ丸、はよかったですね」
船長が苦笑《にがわらい》した。
「いや、こんな場合、うそも方便ですか。釧路丸の船長《マスター》は、代りの砲手を雇ったんですから、鯨と聞いたら、じッとしてはいませんよ」
間もなく船は、スピードをグッと落して、遠くに上る潮の林を目標にして、見え隠れ鯨群のあとをつけるのだった。船足は、のろのろと鈍くなったが、船の中の緊張は、一層鋭く漲《みなぎ》り渡って来た。
東屋氏は、双眼鏡《めがね》を持って、グルグルと水平線を見廻していたが、やがてひと息つくと、水上署長へ、
「昨晩お訊ねしたあの釧路丸の最高速度ですね。あれは、確かに十二|節《ノット》ですね?」
「間違いありません」
署長が、気どって云った。
東屋氏は頷きながら、今度は船長へ、
「欝陵島から根室まで、最短距離をとって、八百|浬《カイリ》もありますか?」
「そうですね。もっとあるでしょう。八百……五、六十|浬《カ
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