五

 北太平洋の朝ぼらけは、晴れとも曇りとも判らぬ空の下に、鉛色の海を果てしもなく霞ませて、ほのぼのと匂やかだった。
 昨夜根室を出た監視船の隼丸《はやぶさまる》は、泡立つ船首《みよし》にうねりを切って、滑るような好調を続けていた。船橋《ブリッジ》には東屋氏を始め、船長に根室の水上署長、それから丸辰の親爺たちが、張り切った視線を遠くの海へ投げかけていた。中甲板の船室では、数名の武装警官達が、固唾《かたず》を飲んで待ち構える。
 こんなに広い海の真ン中で、果して釧路丸が発見《みつ》かるだろうか? その予想は見事に当って、隼丸は、そのまま緊張した永い時間を過すのだった。
 けれども、午後になって遥かな舷《ふなべり》の前方に、虹のように見事な潮を吹き続ける鯨群をみつけると、今まで無方針を押通した東屋氏の態度がガラリと変って、不意に隼丸は、ひとつの固定した進路に就くのだった。
「うまく発見《みつ》かった。あの鯨群を見逃さないように、遠くから跡をつけて下さい」
 東屋氏は続けて命じた。
「それから、無線電信《むでん》を打って下さい。電文は――捕鯨船ニ告グ、東経152、北緯45[#
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