う」と亭主は身をそらして腕を組みながら、「そんな風じゃ、岩倉の見込みの悪くなるのも、ムリはないな……どうもこいつア、成る程大きな事件になりそうだな。なに[#「なに」に傍点]かがあるぜ。そこんとこに……」
「うン大有りだ。確かになに[#「なに」に傍点]かがある……どうも、俺の思うには、あの北海丸が沈んだ時に、生き残った砲手の安吉が、いったいどうして釧路丸なんかに乗り込んでたか、ってのがまず問題だと思うよ……むろん俺は安吉が、大ッぴらで釧路丸に乗ってたのなんか、見たことアないが、昨夜、安吉を殺した釧路丸の船長《マスター》が、代りの砲手を雇って消えたってんだから、いままで安吉は、釧路丸に乗り込んでいたってことに、ま、理窟がそうなる」
「待ちなよ……」とこの時亭主は首を傾《かし》げながら、「あの北海丸が沈んだ時に、一番先に駈けつけたのが釧路丸だったんだから……そうだ。安吉は、運よく釧路丸に救い上げられたんじゃアないかな?」
 すると今まで、気の抜けたようにボンヤリして、二人の話を聞いていた安吉の妻が、顔を上げて云った。
「お前さん。それならなぜ安吉は、直ぐその時に、救けられたって、喜んで帰って
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