、『そいつはなんかの間違いだ。釧路丸は、いまは根室附近になぞおりません』と云うようなことを、答えたんだそうだよ」
「ふム、成る程。あの大将、なかなかの剛腹者だからな……それで、いったい釧路丸は、どっちの方面へ出漁《で》ているって云ったんかね?」
「うんそれが、なんでも朝鮮沖の、欝陵島《うつりょうとう》の根拠地へ出張《でば》ってるんだそうだ。成る程あそこは、ナガス鯨の本場だからな」
「ヘエー? だがそれにしても、欝陵島とは、大分方角が違っとるね」
「いや、とにかくそれで」と丸辰は手の甲でやたらに口ばたをコスリながら、「もうその時署長は、どうも岩倉の大将の云うことは、おかしいなとは思ったんだが、どの途《みち》その場ではケジメもつけかねて、まず一応引きあげた。引挙げてそれから直ぐに、欝陵島のほうへ電信を打った。岩倉の大将の云ったことは本当か嘘か、いや嘘には違いなかろうが、そこんとこに何かごまかしがありはしないか、それが嘘だと云う証拠を握らねばと云うので、抜からず調べて貰った。返事は向うの警察から直ぐにやって来た。ところがどうだい、まず大将の云うように、岩倉会社の釧路丸は、当地を根拠地にして、
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