、丸辰は例のガタ椅子を引寄せて腰掛けながら、
「まんまと釧路丸に逃げられて、今度は、各地の監視船へ電信を打ったんだ。つまり、みつけ次第釧路丸をひっつかまえるように、頼んだわけさ」
「ほウ、水上署から、水産局の監視船へ、事件が移牒《うつ》されたってわけだね?」
亭主が不精髯をなで廻した。
「うン、まアそんなこったろ……だが、なんしろ海は広いんだから、まだみつからない……ところが、一方そうして監視船に海のほうを頼んだ警察は、それから直ぐに、岩倉さんの事務所を叩き起したんだ。ところが、宿直の若僧が寝呆けていてサッパリはか[#「はか」に傍点]が行かないと、業を煮やして、今度は署長が自身乗り出して、社長邸へ乗り込んで、岩倉さんにジカに面会を申込んだわけさ……ここまでは、まずいい。ところがここから先が、面倒なことになったんだ。と云うのは、なんでも岩倉の大将、ことが面倒だとでも察したのか、頭が痛むとかなんとか云って、逃げたがったんだそうだ。が、まアしかし、結局|行会《ゆきあ》って、署長から、これこれ云々《しかじか》と一部始終を聞き終ると、どうしたことかサッと顔色を変えて、なんだか妙にうろたえながら
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