場の伝馬船が叩き起されて、片ッ端から虱潰《しらみつぶ》しに調べられた。けれども、新しい砲手を雇った船長《マスター》は、まだ陸地にうろついているのか、それとも自船の伝馬で往復したのか、それらしい客を乗せて出た伝馬は一艘もいなかった、しかし、その調べのお蔭で、もう一つの新らしい報告が齎《もた》らされた。
 それは、宵の口に帰港した千島帰りの一トロール船が、大きなうねりに揺られながら、海霧《ガス》の深い沖合に錨《いかり》をおろしている釧路丸を見たと云う。
 水上署の活動は、俄然活気づいて来た。
 齎らされた幾つかの報告を組合して、小森安吉を殺した釧路丸の船長は、海員合宿所から一人の砲手を雇うと、早くも自船の伝馬船に乗って、沖合に待たしてあった釧路丸へ引挙げたことが判って来た。
 執拗な海霧《ガス》を突破って、水上署のモーターは、けたたましい爆音を残しながら闇の沖合へ消えて行った。
 けれども、追々に遠去かって行ったその爆音は、どうしたことか十分もすると、再びドドドドドド……と鈍く澱《よど》んだ空気を顫わして、戻り高まって来た。と思うと、今度は右手の沖合へ、仄明くサーチライトの光芒《ひかり》を
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