れが人間の声であるものですか!……それは、笑うようでもあれば、泣くようでもあり……そうそう、まるで玩具《おもちゃ》の風船笛みたいでした」
「渡り鳥の中にも、あれに似た声を出すのがあったが」
と老看守だ。
「いや、似ていますが、あれとはまた全然違います。むしろさかり[#「さかり」に傍点]時の猫の声のほうが、余程似ています」
「ああそうそう、そうだったな」
と風間看守が引き取って言った。「……そこでわたしは、とりあえず三田村君に無電の方を頼んで、蝋燭の火をたよりにこの階段を登ったのです。そしてこの頂上のランプ室兼当直室で、とうとう、恐ろしいものを……」
「幽霊かね?」
と東屋所長が言った。
「そうです……あいつは、ランプ室の周囲の大事な玻璃窓《はりまど》を、外から大石でぶち破って侵入したのです」
ちょうどこのとき、三田村技手が、目の前の階段を指さしながら、大きな叫びを上げた。見れば、うす暗い蝋燭の火に照らし出されて、階段の踏面《ふみづら》にたまったどす黒い血の流れが、蹴上げからポタリポタリとだんだん下へしたたり落ちていた。わたしは思わず息を飲みこんだ。そしてものも言わずにランプ室に
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