灯台鬼
大阪圭吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)汐巻《しおまき》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)心気|病《や》み

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ものずき[#「ものずき」に傍点]
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       一

 わたし達の勤めている臨海試験所のちょうど真向いに見える汐巻《しおまき》灯台の灯が、なんの音沙汰《おとさた》もなく突然吹き消すように消えてしまったのは、空気のドンヨリとねばった、北太平洋名物の紗幕《ヴェール》のようなガスの深いある真夜中のことであった。
 水産試験所と灯台とでは管轄上では畑違いだが、仕事の上でおなじように海という共通点を持っているし、人里はなれたこの辺鄙《へんぴ》な地方で、小さな入り海をへだてて仲よく暮している関係から――などというよりも、毎日顕微鏡と首っ引きで、魚の卵や昆布の葉質と睨《にら》めッくらをしているような味気ないわたし達の雰囲気にひきくらべて、荒海の彼方《かなた》へ夜ごとに秘めやかな光芒《こうぼう》をキラリキラリと投げつづけている汐巻灯台の意味ありげな姿が、ど
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