んなにものずき[#「ものずき」に傍点]なわたし達の心の底に貪婪《どんらん》なあこがれをかき立てていたことか。だから、当直に叩《たた》き起された所長の東屋《あずまや》氏とわたしは、異変と聞くやまるで空腹に飯でも掻《か》ッこむような気持で、そそくさと闇《やみ》の浜道を汐巻岬《しおまきみさき》へ駈《か》けつけたのだった。
いったい汐巻岬というのは、海中に半《はん》浬《カイリ》ほども突き出した岩鼻で、その沖合には悪性の暗礁《あんしょう》が多く、三陸沿海を南下してくる千島寒流が、この岬の北方数浬の地点で北上する暖流の一支脈と正面衝突をし、猛悪な底流れと化して汐巻岬の暗礁地帯に入り、ここで無数の海底隆起部にはばまれて激上するために、海面には騒然たる競潮《レイス》を現わしていようというところ。だから濃霧の夜などはことに事故が多く、船員仲間からは魔の岬と呼ばれてひどく恐れられていた。
ところがちょうど三、四カ月ほど前から、はからずも当時あやうく坐礁《ざしょう》沈没をまぬがれた一貨物船の乗組員を中心にして、非常に奇妙な噂《うわさ》が流れ始めた。というのは、汐巻灯台の灯が、ことに霧の深い夜など、ときど
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