音がしたとすれば、この灯台よりほかにありませんので、急に堪《たま》らない不安にかられて官舎の玄関までとび出しました。見れば塔の頂上のランプ室は灯が消えて真っ暗です。わたしは思わず大声をはり上げて、ランプ室に当直しているはずの友田君を呼び上げました。すると、その返事のかわりに、こんどはこの塔の根元で、突然大きな地響きが起りました。こいつア大変だと急いでとび出したときに、向うの無電室からわたしとおなじようにとび出して来た、三田村君に出会いました」
 老看守はここで一息ついた。なにかしら錯覚でもおこしそうなこの螺旋階段は、ひどくわたしの神経を疲れさす。わたし達の後から登って来た三田村技手が、このとき口を入れた。
「全くそのとおりです。わたしも風間さんとおなじように気味の悪い音を聞きました。そしてこの下の入口のところへ来たときに、この塔の頂上のほうから、低いながらも身の毛のよだつような呻《うめ》き声を聞きました……友田さんのでしょう……そしてその呻き声がやむかやまぬに、今度はなんとも名状しがたい幽霊の声を聞いたのです」
「幽霊の声?」
 東屋氏が真剣に聞きとがめた。
「ええ幽霊の声ですとも。あ
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