あのしっかり者で聞えた風間老人までが、うって変ってこのようなことを言うのに、わたしは思わず身の固くなるのを覚えた。
「……いや、初めからお話しましょう」
と風間老人は、わたし達の先に立って、暗い急な螺旋《らせん》階段を登りながら言った。その声がまた、長い高い塔内に反響して、なんとも言えない陰《いん》にこもった呟《つぶや》くような木霊《こだま》を伴うのだった。
「……わたしは今夜は非番でしたが、あの友田看守は、このごろ昼間無電のほうをチョイチョイ手伝いますので、つい疲れてときどき居眠りをするようですし、変な噂はたつし、それに、今夜はわたしの横着娘が少しばかり加減が悪いので、それやこれやで、どうも思うように熟睡出来ませんでしたが……それはちょうど、一時間ほど前のことです……まずわたしは、最初ゆめうつつの中で、突然屋根の上のほうでガラスの割れるような大きな音を聞いたのです。するとほとんどそれと同時に、おなじ方角で、なにかしら、機械でもこわれるようなはげしい金属的な音がいたしました。で、びっくりして飛び起きたわたしは、しばらく呆然《ぼうぜん》としておりましたが、なにしろ天井の方角でそのような
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