。
「あれは友田君の細君のあきさんです。ひどい心気|病《や》みですから、もう少し[#「もう少し」は底本では「もし少し」と誤植]落ちつかないことには、現場が見せられないんです。いやどうも、とんでもないことになりました」
そう言って、風間老看守は、手燭《てしょく》の蝋燭《ろうそく》に火をつけようとするのだが、手がふるえて火が消えるので、何度も何度もマッチをすりつづけた。
わたしは今までにも数回この老看守には会っているのだが、こんなに彼が蹌踉《そうろう》としているのを見たのは初めてだ。あの謹厳な古武士のようなおもかげは、いまはもう微塵《みじん》も見えず、蝋燭の焔《ほのお》を絶えず細かにふるわせながら、わたし達の先に立って、灯台の入口のドアをしずかに開きながら、ふり返って言った。
「……ま、とにかく、現場を一度見てやって下さい」
そこで東屋所長とわたしと三田村技手の三人は、老看守の後につづいて、うす暗い階段室に入った。ところが塔内に入ってドアを締め終った老看守は今度は身をすりつけるようにして急に声をおとすと、訴えるように言った。
「……わたしは、生まれてはじめて、幽霊をみました……」
前へ
次へ
全31ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング