田村技手へあらたまった調子で言った。
「ところで三田村さん。あなたは事件のあった直後にここへ登って来られたとき、階段の途中で風間さんに逢われたのでしたね。風間さんは、何か手に持っていませんでしたか?」
「……そういえば、洋服の上着を脱いで、こう、右手に持っていられました」
「なるほど。有難う。じゃあもう一つ訊かせて下さい。あの娘さんは、何歳《いくつ》ですか?」
「ええと、多分、二十八です」
「品行はどうですか?」
「えッ、品行?……ええ、いや、なんでも、大変利口な、いい娘《こ》だったそうですが……」
「いや、ここだけの話ですから、遠慮なく聞かせて下さい」
「はア……以前は、よかったんですが……それが、その……」と三田村技手はひどく困ったふうで、
「……ちょうど去年の今ごろのことでしたが、当時風間さんの宅に、しばらく厄介になっていた或《あ》る貨物船の機関士と、いい仲になって、家を飛び出したのがそもそもよくなかったんです……なんでもその後、横浜あたりでどうにかやっていたそうですが、なんしろ相手がよくない船乗りのことで、定石《じょうせき》どおり、子供は孕《はら》む、情夫《おとこ》には捨てられ
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