「ところがきみ、ほら、綱は分銅の落ちる三十メートルの円筒の深さよりも、故意か偶然か、四メートルも短いじゃないか。だからつまり、あの地響きは、――海上から化け物が投げ込んだ暴れ石に、旋回機が砕かれたときに傷ついたロープが、そのあとだんだん痛んでいって、ついに切れて自然に分銅が落ちて地響きがした――などというのではなくて、友田看守を殺し、あのランプ室の破壊をぼくがいま言ったような方法で行った怪人物が、一端を分銅の把手《とって》のひっとき[#「ひっとき」に傍点]結びの端へ縛り他の一端をランプ室で手もとへ残しておいたところの、あの細紐を、破壊後に引っ張ると、果してひっとき[#「ひっとき」に傍点]結びは解けて、それまで途中にぶら下っていた分銅は、俄然《がぜん》円筒底へ落ちる。そして二人の証人が、ガラスや機械のこわれる音のしばらく後から聞いたという、地響きを立てたのだ」
「なるほど」
 わたしは領《うなず》いてみせた。
「一方その怪人物は、解けた綱を手繰り上げると、友田看守の腹の上に坐った岩片《いし》のほうも解いて、階段から降りると物音に驚いて登って来る人に見られるから、ランプ室の外のデッキの手す
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