両の眼玉をとび出さして、へなへなとつくね[#「つくね」に傍点]たように横たわっている友田看守の死体だった。そしてなんとその腹の上には、ひどく湿りをおびた巨大な岩片《いわ》が、喰《く》い込むように坐《すわ》っているのだ。
「……これやアひどい……ずいぶん大きな石ですね」
 東屋氏が口を切った。
「さあ、四、五十貫はありますね」と三田村技手が言った。
「こいつア大の男が二人かかっても、この塔の上まではちょっと運べませんね……まして、外の海のほうから、三十メートルの高さのこのガラス窓を破って投げ込むなんて、正に妖怪《ようかい》の仕業《しわざ》ですよ」
「で、あなたの見た幽霊というのは?」
 と東屋氏が、風間老看守のほうへ向き直った。すると老看守は引ッつるように顔を顰《しか》めながら、
「……先ほど申しましたように、わたしはこの室《へや》へ入った瞬間に、その割れた玻璃窓の外のデッキから、それは恐ろしいやつが、海のほうへ飛び込んだのです……それは、なんでも、ひどく大きな茹蛸《ゆでたこ》みたいに、ねッとりと水にぬれた、グニャグニャの赤いやつでした……」
「蛸?」
 と東屋所長が首をかしげた。
「蛸
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