なら吸盤があるから、ここまで登って来るかもしれないね」
とわたしは冗談らしく言った。すると東屋氏は、
「いや、この近海のように寒流の影響のある海には、二、三メートルからの巨大なミズタコというやつはいるが……けれども、そんな赤いものではない」
そう言って、しきりに首をひねり始めた。
見ればリノリウムを敷き詰めた床《ゆか》の上には、なるほどそのような妖怪の暴れた跡らしく、点々としておびただしいガラスのかけ[#「かけ」に傍点]や血海のほかに、なんとなくぬらぬらした穢《きたな》らしい色の液体が、ところかまわずベタベタと一面にこぼれており、それがまたなんとも言えない生臭いような臭気をさえ、室中に漂わせているのだ。
三
「……わからん」
ややあって、東屋氏が投げ出すように言った。
「さっぱりわからん……けれども、これだけのことはわかるね」と腕組みを解きながら、「とにかくわたし達試験所の当直の報告や、あなた方のお話を綜合《そうごう》してみても、……まずこの大石が、玻璃《はり》窓を破って室内に飛び込み、ランプや旋回機を破壊して当直を叩き殺す。でそのとたんに、ランプの回転が止っ
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