ら、気狂いじみたチンドン屋の馬鹿騒ぎが、チチチンチチチンと聞えて来た。


          二

 それから数分の後。N町の交番だ。
 新米の蜂須賀《はちすか》巡査は、炎熱の中に睡魔と戦いながら、流石《さすが》にボンヤリ立っていた。
 そこへ一人のチンドン屋が、背中へ「カフェー・ルパン」などと書いた看板を背負い、腹の上に鐘や太鼓を抱えたまま息急《いきせき》切って馳け込んで来ると、いま秋森家の前を通りかかったところが、恐ろしい殺人事件が起きあがっていた事、死人の側には三人の男がついていたが、ひどく狼狽している様子だったので、取りあえず自分が知らせに来た事、などを手短に喋り立てた。殺人事件! 蜂須賀巡査は電気に打たれたようにキッとなった。時計を見る。三時十分前だ。取りあえず所轄署へ電話で報告をすると、そのまま大急ぎでチンドン屋を従えて馳けだした。
 現場には、もう例の三人の他に、秋森家の女中やその他数人の弥次馬が集っていた。蜂須賀巡査の顔を見ると、いままで弥次馬共を制していた雄太郎君が進み出て、被害者の倒れていた地点から約五間程西へ隔った塀沿いの路上から拾い上げたと云う、血にまみれたひ
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