とふりの短刀を提供した。
蜂須賀巡査は早速証人の下調べに移った。
「……じゃあ、つまりなんだね……吉田君がこちらから、その浴衣を着た二人の男を追って行く。向うから戸川さんがやって来る。ふむ、つまり、挟撃《はさみう》ちだ。而《しか》も道路は、一本道!……ところが、犯人はいない?……すると……」
蜂須賀巡査は眉根に皺を寄せ下唇を噛みながら、道路の長さを追い始めた。が、やがてその視線が、秋森家の石塀の、曲角に近い西の端に切抜かれた勝手口の小門にぶつかると、じっと動かなくなってしまった。が、間もなく振り返ると、微笑を浮べながら二人の証人を等分に見較べるようにした。勿論雄太郎君も戸川差配人も、すぐに蜂須賀巡査の意中を悟って大きく頷いた。
「困ったことですが」と差配人の戸川が顔を曇らしながら云った。「どうも其処より他に抜け口はございません」
そこで蜂須賀巡査は意気込んで馳けだし、勝手口の扉《と》をあけて屋敷の中へ這入って行った。が、やがてその扉口《とぐち》から顔を出すと、勝誇ったように云った。
「ふむ。図星だ。足跡がある!」
恰度この時、司法主任を先頭にして物々しい警察官の一隊が到着した。
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