さず訊ねた。
「いまこの道で、白い浴衣を着た二人の男に逢いませんでしたか?」
「………」男は呆気にとられ瞬間黙ったまま立竦《たちすく》んでいたが、意外にも、すぐに強く首を横に振りながら、
「そんな男は見ませんでした。……なにか、あったんですか?」
「そいつア困った」と雄太郎君は明かにどぎまぎしながら投げ出すように、「いま、この秋森さんの門前で人殺し……」
「なんですって!」男は見る見る顔色を変えて「人殺しですって! いったい、誰が殺《や》られたんです?」と引返す雄太郎君に並んで馳けだしながら、とぎれとぎれに云った。
「私は、この秋森の差配人で、戸川弥市《とがわやいち》って者です」
 けれどもすぐに石塀を折曲って秋森家の門前が見えると、二人はそのまま黙って馳け続けた。そして間もなく郵便屋に抱き起こされて胸の傷口へハンカチを押当られたままもうガックリなっている女を見ると、洋服の男は飛びかかるようにして、
「あ、そめ子!」
 と、そしてものに憑かれたように辺りをキョロキョロ見廻しながら、
「……こ、これは私の家内です……」
 そう云ってべったり坐り込んで了った。
 曲角《まがりかど》の向うか
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