には、もう老配達夫は秋森家の表門へ向って馳け出していた。雄太郎君も直ぐにその後を追った。けれども二人が表門に達した時にはもう二人の怪しげな男の姿はどこにも見当らなかった。黒い大きな塊に見えたのは案にたがわず這うようにして俯向きに崩打《たお》れたまま虫の息になっている被害者の姿だった。見るからに頸の白い中年の婦人だ。鋪道の上にはもう赤いものが流れ始めている。郵便屋はすっかり狼狽し屈み腰になって女を抱きおこしながら雄太郎君へあちらを追え! と顎をしゃく[#「しゃく」に傍点]ってみせた。
秋森家の表を緩やかな弧を描いて北側へカーブしている一本道の六間道路は、秋森家の石塀の西端からその石塀と共にグッと北側へ折曲っている。雄太郎君は夢中でその右曲りの角へ馳けつけると、体を躍らすようにして向うの長い道路をのぞき込んだ。その道路の右側は秋森家の長い石塀だ。左側は某男爵邸の裏に当る同じような長い高い煉瓦塀だ。恐らく隠れ場所とてない一本道――。だが、犯人はいない!
犯人の代りに通りの向うから、一見何処かの外交員らしい洋服の男がたった一人、手に黒革のカバンを提げてやって来る。雄太郎君は馳けよると、すか
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