が、犯行後にビラを投げ込んだのが確かであったなら……あの犯人の足跡は……そうだ。恐ろしい罠だ。恐ろしい詭計だ……。
 蜂須賀巡査は、考え考え歩き続けた。ところが、茲《ここ》ではからずも蜂須賀巡査は、またしてもひとつの不可解な問題にぶつかってしまった。
 恰度秋森家の表門の前の犯行の現場まで来ると、何に驚いたのか蜂須賀巡査は不意に立停ってしまった。そしてじっと前方を見詰めたまま、頻りに首を傾げ始めた。が、やがていまいましそうに舌打すると、少からず取乱れた足取で大股に歩き始めた。そしてアパートの前まで来ると、さっさと玄関へ飛び込んで、受付へ、
「吉田雄太郎君を呼んで呉れ給え」
 と云った。
 訊問の立会で神経がくたくたに疲れてしまった雄太郎君は、自分の室で思わずうつらうつらしていたが、吃驚《びっくり》して飛び起きると大急ぎで階段を降りて来た。そして蜂須賀巡査の顔を見ると、
「また何か起ったんですか?」
「いや、なんでもありませんが、一寸|貴方《あなた》に訊き度い事があるんです。済みませんが、一寸そこまで」
 そう云ってもう歩き出した。
「いったい何です?」
 雄太郎君は蜂須賀巡査の後に従い
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