ながら、急きこんで尋ねた。けれども蜂須賀巡査は、そのままものも云わずに歩き続け、やがて秋森家の表門の前まで来て鋪道の上の先刻《さっき》の処に立停ると、振返っていきなり云った。
「いま、私達の立っている処が、現場、つまり被害者の倒れていた処でしょう?」
雄太郎君は、この突飛もない判りきった質問に思わずギョッとなった。そして顫えながら大きく頷くと、蜂須賀巡査は、今度は探るような眼頭《めがしら》で雄太郎君を見詰めながら、
「僕は、君を、真面目な証人として信じているが、君はあの時確かに、アパートの前のポストのすぐ側に立っていて、此処に被害者の倒れていたのを見たと云ったね?」
「そうです」雄太郎君は思わず急きこんで、「嘘と思われるなら、郵便屋にも訊いて下さい」
「ふん、成る程。すると、此処から向うを見れば、鋪道の縁に立っているそのポストは、当然見えなければならない筈だね?……どうです。ポストが見えますか?……」
雄太郎君は途端に蒼くなった。ナンと雄太郎君の視線の届くところ、そこにはポストの寸影すら見えないではないか! ポストより数間手前にある筈の街燈が、青白い光を、夕暗《ゆうやみ》の中へボン
前へ
次へ
全29ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング