ら、散《ちらし》広告が投げこまれる……それから犯人が女を殺しに出かける途中で、投げこまれたこの広告を踏みつける……それでいいか? それでいいのかナ?……駄目駄目。サッパリ理窟が合わんぞ! 蜂須賀巡査は頻《しき》りに苦吟しはじめた。
するとそこへ、取調べを終った司法主任の一行が、宏と実の双生児《ふたご》を引立てて意気揚々と出かけて来た。蜂須賀巡査は急にうろたえはじめた。そしてどぎまぎした調子で司法主任へ云った。
「待って下さい。ちょっと疑問があるんです」
「なんだって?」司法主任は乗り出した。「疑問? 冗談じゃあない。随分ハッキリしてるぜ。鑑識課から電話があったんだ。兇器の柄の指紋と、秋森宏の指紋がピッタリ一致しているんだ!」
――蜂須賀巡査は、手もなく引退《ひきさが》った。
やがて一行は引揚げて行った。そして秋森家の双生児《ふたご》は殆んど決定的な犯人として警察署へ収容され、事件は一段の落着を見せはじめた。
ところが、虫がおさまらないのは蜂須賀巡査だ。夕方の交代時間が来て非番になると、相変らず悶々と考え続けながら秋森家へやって来た。そして勝手口の例の場所で、先刻《さっき》の女中
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