下駄の主が庭の植込から出て来て、この小門を脱け出て行く際に踏みつけられたものに違いない。――ふむ。カフェーの広告だな。ルパン……ルパン? はて、聞いたことのある名だぞ?……
何に気づいたのか、急に蜂須賀巡査は立ちあがった。そして額口に激しい困惑の色を浮べながら、暫くじっと立止っていたが、やがて訊問をすまして台所へ出て来た女中のキミを見ると、歩みよって声をかけた。
「君。ちょっと訊くがね。この家へは、新聞や散《ちらし》広告は、どこから入れるかね?」
「え、新聞?」と彼女は体を起してエプロンで手を拭きながら「新聞は、その小門を開けて、台所《ここ》まで届けて呉れますわ。郵便もね。でも、広告などは、その小門を一寸開けて、そこから投げ込んで行きますが」
「成る程。有難う」
蜂須賀巡査は大きく頷いた。けれどもその顔色は見る見る蒼褪め、額口には一層激しい困惑の色を浮べて今までの元気はどこへやら、下唇を堅く噛みしめながら、顫える指先で盛んに顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》のあたりをトントンと軽く叩きながら、塑像のように立竦《たちすく》んでしまった。
――妙だ……つまりここか
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