ても、双生児《ふたご》の現場不在証明《アリバイ》は極めて不完全なものであったし、何よりも悪いことには、訊問が被害者の戸川そめ子の問題に触れる度に、双生児《ふたご》は何故か妙に眼をきょとつか[#「きょとつか」に傍点]せたり臆病そうに口籠ったりした。この事は明かに係官の心証を損ねた。そして司法主任は、双生児《ふたご》の指紋と、押収した兇器の柄に残された指紋との照合による最後の決定を下すために、警視庁の鑑識課へ向けて部下の一人を急がした。
三
さて、一方足跡の番人を仰せつかった新米の蜂須賀巡査は、奉職してから初めての殺人事件に、もう一番手柄を立てたかと思うと、内心少からぬ満足で、こうなるとそろそろ商売は可愛らしく、後手を組んで盛んに合点しながら、足跡の線をあちらへブラリこちらへブラリと歩き廻っていた。
こうして研究してみると、足跡などもなかなか面白い。例えば――、蜂須賀巡査は勝手口の小門の近くに屈み込んで、庭下駄の跡に踏みつけられた一枚の桃色の散《ちらし》広告を見ながら考えた。――例えば、この広告ビラは、小門の方を向いた庭下駄の跡に踏みつけられているのだから、庭
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