のであった。面会といっても、僅か三分間くらいのもので、会長はただ金を渡すだけでサッサと帰ってしまう。それで、一日に一人しか、案内出来ないことになっているとのことであった。
 ところで、その奇徳な覆面会長が、何故このように妙な奉仕会を始めたか、そして又、何故そんなに三の字づくしのサービスをするのか、その根本的な事情について、ひと通りの話を聞いた伝さんが、質問の矢を向けると、三の字旅行会の案内人は、しんみりした調子に改まって、こんな風に説明したのであった。
「……そうそう、あなたも、定《さだ》めしその点、不思議に思われたことでしょうね。いや、こいつは私も、会の会計をしている方から又聞きしたことですから、全く詳しいことは知らないんですが、何んでも会長は、まだ貧乏していた若い頃に、自分のところへ引取ることの出来ないような子供をこしらえたんだそうですよ。女の子で、三枝《みつえ》という名前をつけたそうですがね、ところが、それがそもそもこの因縁咄の起《おき》はじまりで、最初は、母親の手許で育てられたんだそうですが、その娘さんの三つの歳に、可哀相に母親はふとした病気がもとで死んでしまい、娘さんは、関西
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