方面の、或る慈悲深い人の手に渡って、育てられることになったんですが、ところがこの娘さんが又、育つにつれて大変利口な子供になり、学校へ上るころには、もう自分の身の上をそれとなく気づいてでもいたのか、しきりと東京の空を憧れるようになったんです。ところが悪いことには、三枝さんは生れつきの病身で、成長するにつれて段々弱くなり、女学校を出る頃にはすっかり病気になって、もう床についたまま起きることも出来ない様になってしまったんだそうです。――肺病の一種じゃアないかと、私は思うんですがね。それで、ま、時には良くもなったり軽くもなったりしたでしょうが、兎に角憧れの東京へ出て来る程の体にはなれず、殆んど病床にばかり暮して、そのまま十年の月日がたってしまい、恰度三十の歳の三月に、とうとう病気に負けてしまい、東京へ行き度い行き度いと叫びながら死んでしまったんだそうですよ。ところで、もうその頃、東京の父親は、幸運に恵まれて大変な金持になっていたんですが、ふとしたことからその娘の育ての親にめぐり会い、娘の亡くなるまでの可哀想な話を初めて聞かされると、あとに子供の一人もない父親は、気も狂わんばかりに驚き打たれて、
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