三の字旅行会
大阪圭吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)到着《とうちゃく》した

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)商売|敵《がたき》だと

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)きっかけ[#「きっかけ」に傍点]というのは、
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          一

 赤帽の伝さんは、もうしばらく前から、その奇妙な婦人の旅客達のことに、気づきはじめていた。
 伝さんは、東京駅の赤帽であった。東海道線のプラット・ホームを職場にして、毎日、汽車に乗ったり降りたりするお客を相手に、商売をつづけている伝さんのことであるから、いずれはそのことに気がついたとしても不思議はないのであるが、しかし、気がついてはいても伝さんは、まだそのことについて余り深く考えたことはなかった。
 なんしろ、一日に何万という人を、出したり入れたりする大東京の玄関口である。一人や二人の奇妙なお客があったとしても、大して不思議に思うほどのことはないのであるし、第一、一旦列車が到着《とうちゃく》したとなれば、もう自分のお客を探すことで心中一パイになってしまい、まった
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