か、面白い因縁|咄《ばなし》がおあンなさるんじゃねえかと、ついその、物好き根性が頭をあげて、お聞きしたいんですよ」
 男は、前より一層困ったような顔をして、しばらく黙ったまま立っていたが、やがて、思い切ったように小声で切り出した。
「実は、お察しの通りですよ。私は、三の字旅行会というのに使われている、ま、一種の案内人といったような者ですがね。なんしろ雇人《やといにん》ですから、深いことは知りませんが、お察しの通り私のお客様には、その三の字旅行会という会との間に、一風変った因縁咄があるんですよ」
「ほほう。そいつア是非とも、お差支なかったら、伺いたいものですね」
 伝さんは思わず乗り出した。だがこの時、三時の急行列車が烈しい排気《エキゾースト》を吐き散らしながら、ホームへ滑り込んで来ると、
「じゃあ又この次お話しいたしましょう」
 男は云い残して、いつものように三等車の三輛目へ乗り込み、今日はいつもより一段と美しい、年の頃二十八、九の淑《しと》やかな婦人のお供をして、大きなカバンを提げながら、改札口のほうへ向って、神妙に婦人のあとから地下道の階段をおりて行った。伝さんも、お客が出来て急に
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