てみようと決心した。
 或る日午後三時十分前。例によって、ひょっこりプラット・ホームに現れ、多くの出迎人の後へ立ってボンヤリ三時の急行を待っていたその男へ、伝さんは、何気なく近づいて声をかけた。
「毎日ご苦労さんですね」すると男は、急に変テコな顔になった。そしてひどくあわてた調子で、
「いやどうも、毎日のお客様で、やり切れませんよ」
 そういって、同情を乞うような目つきで、伝さんの顔を見た。伝さんは、すかさずいった。
「いや、わしもこれで、二十年も赤帽稼業をしているから、お客様を待つ気持のつらさというものは、よく判るですよ。……時に、無躾《ぶしつけ》なことをお聞きするが、あんたのお客さんは、どうもまことに、不思議なお客さんばかりですね」
 男は黙ったまま目を瞠《みは》って、一層変テコな顔をした。

          三

「いや、どうか悪く思わないで下さいよ。わしはどうも物好きな性分でね。なんしろ、あんたの毎日のお客様を、それとなく拝見しているに、どうも、時間といい、客車《はこ》といい、切符といい、荷札といい、どれもこれも三の字にひどく関係の深い御婦人達のように思われてね。これには何
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