て降りて来る頃には、もう伝さんは自分のお客のことで一生懸命になっているので、その顔を見覚えることなぞ到底出来よう筈もないのであるが、出迎えの男のほうは、なにしろ殆んど毎日のことであるので、いつの間にか顔も見覚えていたのであった。
二
最初のうち伝さんは、その出迎男《でむかえおとこ》を、何処かインチキなホテルの客引かなんかであろうと考えた。そして、五月蠅《うるさ》い商売|敵《がたき》だと思った。しかし、だんだん日数が重なるにつれて、どうも只《ただ》の客引にしては少し腕がよすぎると感づき、つづいて手荷物の三の字と、三時の三等車の三輛目に気がついて、どうやらこれは只の客引なぞではなく、何か曰《いわ》くのある団体の、一種の案内人――といったようなものではあるまいかと、考えなおすようになったのであった。そして結局、伝さんの疑問の中心は、まずその、毎日三時の汽車で上京して来る奇妙な婦人客の上へ、注がれるのであった。
――妙な女達だ。よくよく三という字に、惚れくさ[#「くさ」に傍点]っているらしい。伝さんは、あせらずゆっくり考えた。
しかし、もともと余り物事を深く考える
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