お蔭で、オマンマを食べている赤帽の伝さんである。成る程、一見普通の婦人客と区別のつかないような平凡な婦人なぞいつでも満員で、降車客もゴッタ返すような混雑を呈するとはいいながらも、その妙な三の字を書いた荷札つきの手荷物を持った、三時の急行の三等車の三輛目の婦人客に、いつからともなく気がついたとしても、不思議はないのであった。
尤も、伝さんが、いちばんはじめその妙な婦人達のことに気のついたきっかけ[#「きっかけ」に傍点]というのは、必らずしもその手荷物ばかりでなく、いつもその手荷物を持たされる、例の人の好さそうな出迎えの男にもあった。
その男は、成る程人の好さそうな顔をしてはいたが、余り風采の立派な男ではなかった。いつでも薄穢《うすよご》れのした洋服を着て、精々なにかの外交員くらいにしか見えなかった。毎日三時少し前になると、入場券を帽子のリボンの間に挾んで、ひょっこりプラット・ホームへ現れ、ほかの出迎人の中へ混って、汽車の着くのを待っているのであった。汽車が着くと、男は必らず三等車の三輛目の車へはいって行って、やがて、例の奇妙な婦人客のお供をして降りて来るのであるし、そのお客が男を従え
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