ことが判った。――手っとり早く、ことのあらましを申上げようかね。今日捕まったあの男は、神田の、或る万年筆屋の番頭で、三角太郎《みすみたろう》っていうどえらい先生なんだ。それで、この万年筆屋は、大阪に工場を持っているんだ。昨年あたりまではこの万年筆屋は、大阪の工場から何万本という万年筆を時々まとめて送らしていたんだ。ところがこの方の仕事も自分の手でやっている三角太郎氏は、今朝あたりもう大阪で捕まっている筈の、同類の『支部長』と一計を案じ出して、運賃詐欺をしはじめたのだ。つまり、時々大量に送る荷物を、毎日少しずつに分けて、カバンでもトランクでも、或はボール箱でも風呂敷包みでもなんでもいい。兎に角手頃な手荷物の恰好にこしらえて、それに例の赤インキで三の字のはいった荷札をつけ、まず大阪の『支部長』がそれを持って大阪駅で入場券を買い、お客を送るようなふりをして、東京へ三時につく列車の、三等車の三輛目の網棚へ乗っけて、そのまま知らん顔をして引揚げる。列車はお客さんの手荷物と思い込んで、黙って東京駅まで運んで呉れる。さて、午後の三時には、三角太郎氏が、東京駅で入場券を買って、いかにもお客を迎えに行く
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