ようなふりをしてホームへはいり、三時についた急行の、三等車の三輛目の網棚から、『支部長』が置いたままになっている、その三の字のどぎつい目印のついた荷物を持って、誰れでもいいからお客の後ろにくッついて、さもそのお客を迎えに来たお供であるようなふりをしながら駅を出て行く、とまア、そういう寸法なんだ。それが、女の後ばかりついて降りて行ったというのは、これは自然の情でね。どうせ誰のあとへついて行ってもいいのなら、ジジむさい男のあとなぞついて行くよりは、若い女の後ろのほうが、よっぽど気持がいいんだからね。兎に角そのやり方でやれば、まず一回一日分何円とかかる筈の運賃が、大阪と東京の二枚の入場券、つまりたったの二十銭で事が足りるんだから、随分便利な方法さ。それも二度や三度ではなく、もうこの一年近くも毎日続けていたらしいんだから、この節約された金高というものは、莫大なものだよ。もう判ったろうね。三の字なんて、荷物を送った列車と、車輛と、その荷物との目印に使ったものに過ぎないんだよ。それを、変に勘違いしたお前さんに、たずねられたので、即座にあんなヨタ咄を作りあげて、物好きなお前さんを煙に巻いたというわけ
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