お前さんは、少し講談や小説本に夢中になり過ぎるからいけないんだ。ふン、三の字旅行会だなんて、飛んでもないヨタ咄《ばなし》にひッかかってさ。あんなものは皆んな出鱈目《でたらめ》だよ。僕だって、もう暫く前から、あの案内人や、お客のことには気づいていたんだ。しかし僕は、お蔭でお前さんみたいな飛んでもない勘違いはしなかったよ。第一、君は、その三の字旅行の婦人客達は、一定の地方からやって来ると聞かされたろう。しかし、僕がいままで毎日、その婦人客達から受取った切符の発行駅は、大阪だったり、静岡だったり、神戸だったり、名古屋だったり、いや全くバラバラで、一定の地方からなんてやって来たものでは、決してないんだ。これでもまだお前さんは、その変テコな旅行会を信じたいかね。いやまア、あったことにしてもいい。が、兎に角、会長も会計も、それからいままで案内された、何百人というお客さんも、実は全くのヨタ咄で、ありはしないんだ。精々、今日捕まった案内人が会長で、それから某駅に、支部長が一人いるだけなんだ。この支部長の出張する某駅というのを、実は僕は、もう暫く前から調べていたんだ。それが、この頃になって、大阪駅である
前へ 次へ
全21ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング