たので、宇利氏の突然の質問に、わけもなく調子込んで、先日案内人から聞かされた話を、残らず得意になって喋ってしまった。すると聞き終った宇利氏は、ニッコリ笑いながら立上って、
「有難《ありがと》う。ところで、伝さん。折入って頼みたいのだが、今日の三時に、改札の僕の側へ立っていて貰えまいか。手荷物五つ分の手間賃を払うよ。ね、頼むぜ。いいだろう」
 伝さんは、むろん二つ返事で引受けた。何のことかは知らないが、兎に角、手荷物五つ分の稼ぎである。
 やがて、三時がやって来た。字利氏の後ろでボンヤリ伝さんの立っている改札口へ、三時の急行の旅客達が、雪崩《なだ》れのように殺到して来た。伝さんは、ふと背伸びをして、旅客達のほうを眺め廻した。
 今日の三の字旅行会のお客は、まだ二十を二つ三つ過ぎたばかりの、洋装の娘であった。例の案内人に大きなトランクを持たせて、晴ればれした顔をしながら、真ン中辺を、だんだんこちらへやって来る。宇利氏は、いったい何をしようというのだろう。伝さんは、なんだか急に心配になって来た。
 ところが、やがてその洋装娘が、宇利氏の前までやって来て切符を差出すと、受けとった宇利氏は、娘を
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